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アルバム「Puppet Show」の感想、続きを書きます。

#5. 幻燈機械
Plastic Treeの歴史に燦然と輝く名曲……と個人的には思っています。
是非ともライブで聞いてみたい曲の一つ。

7分を優に超える凄まじく長い曲なのですが、全くその長さを感じさせません。
これは凄いことだよ。
しかも、特に転調したりテンポが変わったりというような展開らしい展開はない。いたってシンプル。
構成的に、特徴らしい特徴と言えば、ストリングスを使っているくらいか。
そのシンプルさの中でここまで聞かせるって凄いよね。

前3曲からうって変わって、この曲はリーダーのベースが3歩くらい後ろに下がっています。全く主張しない。
代わりにギターとドラムが ぐいぐい出てくるのですが、この二人の絡みがじつに素晴らしい。
特にTakashiさんのドラム。
暖かく、そして奥行きのあるドラムは、曲の世界観をかちっと印象付けています。
タイトルは「幻燈機械」だけど、描かれた世界は平面じゃないんだよね。影絵の中へ思いっきり踏み込んでいく。
長く、長く伸びる影。

メロディーはきれいだけど、どこか不気味なイメージ。
それは、歌詞のせいによるところも多分にあるのでしょう。

幻燈機械とは何だ。
手回しの映写機、
そしてそれは自分の心だ。
見たい情景だけを永遠にリフレインする。
でも持ってないフィルムなんてどうやったって見られない。

限られた手持ちのフィルム、その中の限られた情景を永遠にリフレインする閉塞感。
そう。この曲を支配するのは閉塞感なんだ。美しい世界から外に出られない。
そんなことをやっている間にも時間は過ぎていく。

「Plastic Tree=枯れない木」というのは、
そのような感傷を宿命的に内包しているのかもしれない。
だからこそ、この曲はPlastic Treeのイメージの中心にあり続けるのだろうと私は思うのです。


#6. 「ぬけがら」
ギター弾き語りから始まる曲。
AメロBメロはアコースティックギターとドラムだけの静かな構成で、
まるで夏の真昼みたいにぽっかりと開けた空のよう。

それが、サビに入ると豹変します。
アキラさんのギターが空間を埋め尽くす勢いで喚き散らし、
リーダーのベースもわんわん叫びます。
それまで開けていた視界が突然閉ざされて、
内面に向かってエネルギーが爆発していくよう。
声にならない叫びだ。

歌詞も、だいたいそんな感じ。こういう感覚ってあるよね。
本当に、このアルバムの歌詞はさらっとシンプルながら、実際に触ると刺さる。そういうのが多いです。

それにしても、
サビに入ると視界が開ける曲は数あれど、
逆ってなかなかないよね。
よくこんな曲を作れるな、と驚きます。

個人的には、サビのドラムにもう少し工夫があっても良かったのかな、とは思います。
Takashiさんが悪いというよりも、他の二人のインパクトが凄すぎるのです。


#7. 本当の嘘 -Studio Live-
2ndシングルです。
スタジオライブ版ということで、撮り直しがされているのですが、
こっちのバージョンのほうがシングルよりも圧倒的に良いです。
音圧が大きく上がっている、
何よりもアキラさんの表現力が圧倒的に向上している。

曲自体は90年代Vロックの最大公約数という感じで、
あまり見るべきところは無いように思いますが、
このきらきらした曲が、このアルバムのこの位置にあることはとても良いです。
落とされる曲ばっかりだから、一服の清涼剤になってくれます。

でも本当に、あのシングルバージョンからよくここまで修正したな。
完全にプラさんの音になっている。
メンバー個々の向上心とか、音楽に対する真摯な態度とか、そう言ったものが見て取れます。
ぜひ聞き比べてみてください。


#8. monophobia
モノフォビア、イコール孤独恐怖症。
スマートフォンやらSNSの普及によって、俄かに脚光を浴びだした言葉でもあります。

やっぱり、最初から歌詞がすごいね。
『空が晴れてたからみんな居なくなった。』

確かに分かります。
美しいものを遠くから眺めるときの無力感。
自分でもそれを美しいと思うから、負の感情をぶつけることさえできない。
生々しい感情の折りたたみ方が素晴らしいです。

サウンド的にも叫んでいて好きですが、
歌詞のインパクトは一歩抜き出てますね。


#9. クリーム
インディーズミニアルバム「Strange Fruits」にも収録されています。
これも「本当の嘘」と同様に新録ですが、何故かこの曲はそれほどの差を感じません。
竜太朗さんの声が柔らかくなっているくらいか。

あんまり歌詞のことは考えないようにしましょう。
この曲を聞くときには、それがいちばん良いと思います。
ほら、風景はすごく美しいし。

以前はライブでこの曲を多く演奏していたようですが、私はこれを聞いたことがありません。
私には、ぜひライブで聞いてみたい曲が3曲あるのですが、そのうちのひとつです。

シンプルに長調。
美しく、多幸感に溢れたメロディー。
楽器隊の明るいアレンジ。
ライブで聞けたら絶対に楽しいと思うんですね。

ライブDVDでは、観客に、
『「空氣の渦」「死ぬ方法」「まとわりつく嘘」とか』の部分を歌わせていて、
竜太朗さん攻めるなぁ、と常々思います。
みんなテンション上がってる。


#10. 3月5日。
プラさんの中でも屈指の毒ソングですね。
嫌いな曲ではないけれど、あまり聞きたい曲ではないし、あまりライブで演奏してほしい曲でもありません。
演奏する方も聞く方も、多分それなりの覚悟が無いと。

歌詞について。
特筆すべき部分は、
「それでも、もしも僕を好きになってくれるなら 両手を広げてとべるんだ」
ですね。

両手を広げて飛べるんだ。
この量産型J-pop歌詞。普通だったらギャグにしかならない言葉ですが、
歌詞全体を見れば見るほど重い言葉なんですね。
その反転の、落差の大きさはすごい。暗い。まさに奈落。

音について。
ドラムの重々しさも好きですが、
何よりもサビのギターリフが好きです。不安が押し寄せてくるようで。

後ろでカラカラ鳴っている謎の音は、雰囲気を出すためにしても少しやり過ぎじゃないか、とも思いますが。
忘れがちなことですが、彼らはヴィジュアル系なので。
これはこれで、世界観の作りこみとしてアリなのだと思います。

 
#11. サーカス
7分越えの曲、その2。
#5の幻燈機械とは違い、こっちの曲はダイナミックに展開しまくってます。
手を変え品を変え、楽しませようと次々に新しいものを見せてくる様子はまさにサーカス。
長さは感じるけれど飽きない。ひとつの幻燈を見た後のような満足感が残ります。

最後の曲にして、このアルバムの中核を成す曲。
まるで、このアルバムに描かれた世界観を全て一つの絵に閉じ込めたよう。

優しい夏の夕暮れを思わせる。
その中でぽつぽつと点灯していくサーカスの灯り。
それは人々のざわめきを溶かしこんで、楽しそうな世界。

と思っていました。
でも歌詞を見ると世界が反転するんだよね。
この捩れ加減がPlastic Treeなのだな、と思います。
歌詞については特に解説したりしませんが、
寒くない冬って何だよ、
ということ。
このアルバムの歌詞は、何か一貫してるなぁ。

書いていて思ったけれど、
このアルバムは全体に、歌詞とサウンドのアンバランスが凄いと思います。
あんな曲が出来て来たら、こういう詞を乗せようなんて普通は思わない。そんな曲が多い。
その辺りも、とても味わい深いです。

この曲に関して言うと、
ギターの展開が大きく、アキラさんの力が存分に発揮されているのですが、
その中でも最後の「寒くない冬が来れば……」辺りのギターリフがすごく好きです。
あまりにも力強いから、本当に寒くない冬が来るんじゃないかと錯覚してしまいます。
なんだか、歌詞とサウンドの間の断層に取り残されそう。



Puppet Showは誰にでもお勧め出来るアルバムですが、
Plastic Treeを初めて聴く人に勧めたい感じでは無いです。
入り口とするにはあまりにも深すぎて、迷いそう。

初めて聴く人には、次回紹介する「ウツセミ」を紹介したいところです。
バランスが良い。間口が広くて入りやすい。適度に深い。
ということで次回は「ウツセミ」です。

なお、もしこのアルバムの中から誰かに薦めるなら、
「絶望の丘」
でしょうか。
ヴィジュアル系3大丘のひとつを訪れてみてください。ある意味で文化財だから。

以前、男子限定ライブの感想でも書いたのですが、
基本的に私はPlastic Treeについてニワカなんです。
あまり昔から追っかけてきた人ではない。

そういう人がまず当たる壁が、「どの曲から聞けばいいの?」という疑問。
(多分、今夏発売される「サイレントノイズ」以降、新規客が同じようなことを考えると思います) 
google先生に聞いてみても、あまり答えは返ってこない。
音源に関するレビューが少ないんですね。
でも音源の数は膨大という。

なので、少しでもそういう人の道標になれれば良いなと思い。
アルバムについてのレビューを書きます。
ヴィジュアル系についても、UKロックについても、あまり詳しくはないのですが。
初心者が書く、初心者のためのレビュー。


このレビューはリリース順ではなく、今現在好きなアルバムの順に書いていきます。そっちのほうがモチベーションが持続しそう。
最初に紹介するのはPuppet Show。
1998年発売の2ndアルバムです。
音楽シーン的には、ヴィジュアル系と小室系がともに全盛期で、音楽チャートに最も活気があった頃ですかね。

ヴィジュアル節を前面に押し出した前作の「Hide and Seek」に比べ、世界観の広がりがすごい。
何より、竜太朗さんのヴォーカルがより力を増しているような気がします。
曲によって歌い方を変えていく、その振り幅というか。

色々な曲が収録されています。
世界観も曲調もばらばらな11曲。
しかしその11曲は、一貫したPlastic Treeの世界。
アルバム全体を通して聴いてみると、その世界観に引きずり込まれます。
ふわふわしているバンドだとよく評されるPlastic Treeですが、その世界は実に細かく描写されている。
入ったらなかなか戻ってこれないよ。

ヴィジュアル系と一括りにしてしまうには惜しい。
曲の素晴らしさも含め、最も好きなアルバムです。
その当時のエネルギーを全部注ぎ込んだような熱さも感じられる。



#1. Intro
アルバムの導入部分となる、57秒のイントロ。
フランス語なのか何なのか分からない一人語りの後ろで、#11「サーカス」のメロディーが流れています。
どことなく、遊園地のメリーゴーラウンドのよう。

この曲は、アルバムのIntroであると同時に、Outroとしての役割も果たしています。
#11「サーカス」の後にループ再生してこれを聴くと、何か、本来あるべきところに到達したような感覚を受けるのです。
そしてまたアルバムの世界が始まる。
最後からここに戻って聴くことで、世界の円環が閉じる。
ぐるぐる回るメリーゴーラウンド。
だから抜け出せないのでしょうか。

ある意味、このアルバムの中で最も重要なトラックです。
近年のプラさんは「インク」「剥製」でも同じようなことをやっていますが、
2ndでその手法が確立されていたというのも何か凄い話です。


#2. May Day
#1の夢物語みたいな風景をかき消すように、楽器隊の爆音から始まります。
まるで感情が爆発したみたいだ。
でも、その割に竜太朗さんの歌声は囁くようで。その不思議な断層に飲み込まれます。
これこそがPlastic Tree。一曲目からぐいぐいとその世界に飲み込まれます。

リーダーを前面に押し出した曲。
とにかくベースラインが強い曲です。
Plastic Treeの曲は全体としてアキラさんのギターが派手だから、そちらに目を奪われがちですが、
リーダーのゴリゴリしたベースが全てを作っているんだな、と思います。 
これは、このアルバムから現在までずっと続く流れ。
Hide and Seekの時のような、メロディアスなベースも良いんだけどね。


#3. リセット
Plastic Treeの年末公演ではおなじみ。
初めてライブで聞いたときは、すごく優しい曲だと思ったけれど。
当時の音源で聞いてみると色々と激しい。

基本的には、ナカヤマさんのギターを軸に据えたストレートなギターロックだけど。
歌詞が凄まじいです。
捩じれまくってて気に止まりづらいけれど、よくよく見ると反骨精神に溢れまくってる。
竜太朗さんのヴォーカルも攻撃的。
よっぽどストレスが溜まってたんでしょうね、この頃の状況には。

そんな中で周りのすべてに対し、「バイバイ バイバイ 全部リセット」だからね。
このエネルギーは凄いよ。
前進するエネルギー。ある意味で浮世を突き抜けている。
20年という時間を経てさらに進み続ける力の片鱗を見ることが出来る曲です。

それほどの力を持った曲だから、今でも演奏できるんだろうな。


#4.  絶望の丘
リーダーが言うところの「ベースから始まる曲」。(剥製ツアー 金沢での一件から)
「ビジュアル系3大丘」のひとつに数えられる曲です。
さらに言うと、リーダーの妹の結婚式で演奏して招待客をドン引きさせたという伝説の曲でもあります。結婚式で絶望の丘って。

色々と曰く付きの曲ですが、
絶望の丘というにはあまりにも美しいメロディーに立ち尽くしてしまいますね。
確かに、静かで空気が澄んだ小高い丘が目に浮かぶような、繊細でふわふわした曲。気持ち良い風さえ感じそう。
でも後ろの演奏はしっかりとロックなのだ。(この曲に関しては、敢えて『後ろの』という言葉を使いますが)
まさにPlastic Treeど真ん中の曲と言えるのではないでしょうか。

このふわふわ感や高揚感はどこから出てくるのだろう。
私は、メロディーラインの拍の取り方かと思うんです。

ベースとドラムはひたすら正確な4拍子を刻んでいて、
その中で、ヴォーカルはAメロで意識的に強拍を避けて歌っている。メロディーの切れ間だったり、短い伸ばし棒が当たったり。
敢えて強拍を外して、アクセントを消した歌い方。多分それがふわふわ感を生み出しているんでしょう。

Bメロも基本的にはそう。初めて強拍がかちっと当たるのは、Bメロの「だーれも、さーわーれなーい、『く』ーらいー」で、
その後、「ゆーめー『に』、ゆー『れ』ーたい」で当たってから後は一転して全ての強拍を拾い始めます。
歌い方も、強拍を強調するような力強いものに変わります。
このひらけ方にカタルシスを感じる。
これはそういう曲です。

まぁそんな小難しいことを言わなくても、
メロディーがきれい! 名曲!
それだけで十分通用する力を持った曲なんですけどね。

この曲について最後にもう一つ。
ギターのナカヤマさんが「ヘヴィ・カッティング・メソッド」というDVDを出していて、その中でこの曲に触れています。
イントロで、ワーミーペダルを踏んで1オクターヴ上げてるんですよ、という話をしていたのですが、
ライブで見ると確かに踏んでいる! さすがナカヤマさん!
そんな感じで、この曲を普通の目で見られなくなったりします。
あれは危険なDVDです。

予想の3倍くらいに長くなってしまったので、今回はこの辺にします。
書こうとすると凄まじく長くなってしまうくらいに良いアルバムなのです。
初めての人ははこれを聴いておけばまぁ間違いない。

続きは次回書きます。

5月14日に原宿アストロホールで行われました、Plastic Tree男子限定ライブ「Boys Don't Cry #2」に行ってきました。
その感想を書きたいと思います。

正直なところ、私は学生時代にPlastic Treeを聞いてましたとか、Plastic Treeの楽曲に救われたんですとか、そんな思い入れは全くありません。
結婚式の2次会で「水色ガールフレンド」を使ったくらいでしょうか。それも私の発案ではないし。
そもそもまともに聴き始めてから1年くらいしか経ってないし。
ただ、聴き始めてからその世界観にハマるまでは早かったな。
行ったライブは今までに10回。
2012年に1回、
2014年に1回、
2015年に3回、
2016年5月までで5回(A9との2MANと春ツアー金沢、京都、札幌、東京)
徐々に浸食されているけれど、まぁニワカには違いない。

そんなニワカが、去年ライブレポを見てからずっと気になっていたのが男子限定の「Boys Don't Cry」。
確かGt.のアキラさんが秋の自由落花ツアーで「伝説になってるみたいな」と評したライブレポがあって、
それを見てからずっと気になっていたんです。

そんな感動的なライブがあるのか。
これに触発されて今回、話半分、本気半分で行ってみた次第です。
ちなみに、一人でPlastic Treeのライブに行くのは初めて。


先行物販に20分ほど遅れて行ったら他に誰も居なくて、『本当にこれ大丈夫か……?』とか思っていました。
スタッフも暇そうだったし。チケットも売れ残っていたし。
しかし、開場時間2分前に再び来たアストロホールはもう既に凄かった。
壁際に規則正しく4列で並んでいるおびただしい数の男、男。男。
普段のPlastic Treeのライブとは違って、多分同行者が居ないからでしょう、殆どの人たちが会話もなくただ黙って並んでいました。一様にライブグッズのTシャツを着て、マフラータオルを首に巻いて。
既に異様な光景。道行く人たちも遠目に見ている。
そんな中を若干小さくなりながら待っているわけです。

41番で入場すると、会場の中にはまだ殆ど人がいない。
取り敢えずドリンクを引き換えてくれとのことだったので、ウーロン茶を購入。当然のごとくペットボトルで来るかと思いきや紙コップだったので若干焦る。仕方ないので飲んでから人込みに突入することにする。
この間3分ほど。
既にセンターはそこそこ賑わっていたので下手へ。3列目くらいに入りました。
経験上、センターと上手は押しもノリも半端じゃないから、少しでも安住の地を求めて。

待っている間、周りから聞こえてくる声に聞き耳を立てる。
あの曲やらないかな。
この前の剥製ツアーすごかったな。
金子さんがフライングV持ってる! キター!
ケンケンいつ脱ぐんだ!

誰も彼もがプラさんの話しかしていない。なんだこの一体感。
周りでスマホを弄ってる人がいたけれど、みんなLINEとかTwitterで何かを報告している。(覗いていたのではなくて見えただけですゴメンなさい)
この寄る辺ない、落ち着かない空気。
普段はこんなじゃないよね。もっとみんな慣れてる。

この時に思ったのですが、会場内がとにかく寒い。
冷房が半端じゃなく強い。
前回のライブが熱すぎたとの話があったので、それを踏まえてのことでしょうか。
向こうは完全にやる気だよ!

そんな中、5分押しくらいでライブは始まる。
そういえばウーロン茶飲んだな、途中でトイレに行きたくなったらどうしようか、
そんなことが頭をよぎりましたが、始まった瞬間に全てぶっとびました。

SEはいつも通りのOnly Shallow。もうこの時点で全員のテンションはクライマックス。
何ならOnly Shallowにさえオイオイ合いの手を入れそうな気配さえ感じました。
ここで凄まじい押しが発生。下手でもそうなるのか!
しかしこれに乗じて3列目から2列目に行くことに成功しました。

そこからいつもの13th fridayに行くのかと思いきや、まさかの1曲目「理科室」。
想像さえしてなかったレア曲に観衆はヒートアップ。世界観に浸るはずの曲なのに、もうありあまるテンションを爆発させるかのようにイントロから「オイ!オイ!」の大合唱。
拳をグイグイと前へ前へ。
サビでベースがゴリゴリし始めたら更に前へ前へ。
待て。なんで最初からそんな全力なんだ。死ぬぞ。

そう思っていたのも束の間、
2曲目から向こうも本気の「フラスコ」。
イントロからクライマックスのこの曲に観衆は大爆発。
うん。間違ってた。さっきの理科室は全然本気じゃなかった。
地獄の底から響くような声でがなり立てる獣たち。世界が揺れた気がした。そのまま別の世界線に飛ばされちゃったようだよ。プラさんがDragon Ashみたいに男臭いバンドだった世界線。
こうなったらもう何でもありだ。
2曲目にしてクラウドサーフが発生する、
モッシュだか何だか分からないけれどぐちゃぐちゃになる、
ギターソロでは「ナカヤマさーん!」のコール。
ラストのサビでもオイオイしていた(ような記憶。もう曖昧であまり覚えていない)

その後、本日は晴天なりを挟んで、MCへ。

Vo.の竜太朗さんのいつもの「やぁやぁ」に対し、
会場は「うおぉぉぉぉ」とも「うわぁぁぁ」とも「ヴャアアアア」ともつかない奇声でご挨拶。
これに対しての竜太朗さんの反応には諸説あるけれど、私には「来たな」というニヤリに見えました。
望んでいた光景、でも本当にあるのか疑っていた光景。そんなものを実際に目にしたような嬉しさ。そんなものに見えたんです。
「多少のケガはいいけど、大ケガはしないように。お互いに」
というセリフにも本気度合いを見ました。ケガするほど暴れる気満々だよこの人。

ハシエンダ。
普段は下手に居ながら殆ど見ていないリーダーだけど(近すぎて逆に見えないんです)、
この人の手元を見ていると本当によく動く。本当にベースの動きなのかこれ。
動くベースといえばラルクのTetsuyaさんだけど、リーダーのはTetsuyaさんみたいに歌うようなベースじゃないんだ。がっちりと強固な骨組み。
それなのによくよく聞いてると動きがすごい。
何なんだよこの人の演奏は(褒め言葉)
間近で見ると惚れ直すベースです。

テトリス。
イントロで竜太朗さんが小声で「ハイッ」という部分があるのだけど、
その部分に全員で全力の「ヴォォォーイ!」を叩きつけていました。
これには竜太朗さんも苦笑。

Dummy Box。
竜太朗さんの「だみーぼー♪」にかぶせるように、
全力の「だみーヴォー!!!!」。
太い。強い。やってることは正しいんだけど、もう全然違う曲だ。
全員で立ち向かえば竜太朗にも勝てる!と言わんばかりに、ボーカルが全く聞こえないくらいの圧倒的な声量。


もちろん、やってるのは暴れ曲ばかりじゃない。
スロウ。
自分の中では、この日のスロウが今までで一番、心の中にすっと入ってきました。
剥製になる前の冷たい静寂、ではない。
この日のスロウには隠しても隠し切れない熱が内包されていたんだ。

アキラさんは2曲目のフラスコのイントロで客席を見た時に笑いが堪えられないようだった。
楽しんでるじゃないか、とでも言うような笑み。
そこからは、ギターを弾きながらずっと笑っていた。演奏しながらあんなに笑うアキラさんを見たのは初めてだ。

リーダーはいつものように、演奏しながら本当に楽しそうに笑っていた。
前に出てきては、マイクもないところでずっと歌っているのだ。

ケンケンはいつもよりも余裕がありそうな表情だった。
いつも通りの全力を叩きこみながら、それでもやはり楽しそうだった。

竜太朗さんについては。
どこの曲だったかは忘れたけれど。
いつものように虚空へと手を伸ばしたんだ。
ステージ上と客席の一人ひとりの間にある物理的な距離、それを何とかして越えようと伸ばすいつもの手。
釣られるように男子たちはおずおずと手を伸ばす。竜太朗さんの邪魔にならないように。
向こう見ずな獣たちは奥ゆかしいんだ。
しかしその日の竜太朗さんは違った。
伸ばせる限りに手を伸ばすと、目の前にあった誰かの手をがっしりと掴んだのだ。
精神的なつながり、とか、向こう側にあるかもしれない理解、とか、そういうものではない。
現実に目の前にある熱量を求めて掴んだ。

こうなると彼らはもう手が付けられない。
誰も彼もが竜太朗さんとのつながりを求めて手を伸ばす。触ろうとする。
握ったら離さず、竜太朗さんに苦笑される。

そこで初めて感情の循環は完結したように見えた。
演者が音に乗せて自分を曝け出せば、
観衆も声で、動きで、そしてさらに多くの物事を求めることで感情を叩き付ける。
あそこにあったのはそんなライブだった。

そんな中でのスロウ。
静かに曲は流れる。
聴く側は何も言葉に出さない。
でもお互いに分かっているんだ。
演奏の後ろ側に隠れて燃えだしそうな情熱を。
何も動かず黙って聞きながら、静かに圧力を高めていく感情を。
一度手と手がつながることで回路は完成して、言葉なんか無くたって通じ合っていたように思った。
ゆっくりと離れ離れになっていく時間を見つめて惜しんでいたのだ。

しかし、そんなことばかりを言ってはいられない。
限られた時間だからこそ、彼らはこのお祭りを全力で楽しまないといけないんだ。
「遊び足りないんでしょ?」
という竜太朗さんの言葉からのマイム。
テンションは一気に振り切れて、フロアは一気にぐちゃぐちゃ。
誰かの足を思いっきり踏みながらジャンプし続けて、
間違って誰かに肘打ちしながら手を上げ続けて、
一曲だけでもう体力はほぼ空っぽ。
アウトロが聞こえ始め、もはやオイオイ叫ぶ気力もなくなった観衆はちょっとほっとしたように見えた。

けれど、そこから間髪入れずのスラッシングパンプキン!
イントロの同期が聞こえた瞬間、誰もがマジかよ……と思ったに違いないけれど、
この辺りからもう全員が多分自分の限界なんてものを捨てたんだよね。
限界を超えても動き続けるゾンビの群れみたい。

今までスラッシングパンプキンの歌詞の意味がよく分かっていなかったけれど、
なんとなく、このフロアの状況がまさにパンプキンじゃないかと感じました。

くすんだ路地に集まったパンプキンたちは、
アキラさんに「このバカども!」と暴れ曲を次々に出され、奴が来た! また来た! と大騒ぎ。
存分に音の鉄槌を叩き付けられて、ぐちゃぐちゃにもてなされている。
地獄絵図じゃないか。

正直なところ、多分、どこかのライブレポートに書いてあるようなものじゃないよ。
あの空間は、夢想するほど良い空間じゃない。
戦争だよ。
演者含め、誰がいちばん愛情を見せては叩き付けられるのかという戦争。
誰もがふらふらになりながら、汗でぐちゃぐちゃになりながら、
普段はぎゅっと押し込めていた愛情と熱量を一つ残らず叩き付けていたんだ。
次があるのかなんて誰にも分からないからね。

アンコールの時間だってそう。
「プーラー男!」→「ケーンーケン!」→「あーりむら!」→「たーだーし!」→「アーキーラ!」→「アンコール!」→「はーやーく!」
と徐々に変遷していくコールも、誰一人として手を抜かない。
何なら演奏中よりも騒音デシベルは大きかったんじゃないか。
普段、私はアンコールを言いませんけれど、乗せられるねあれは。
それほどの一体感。
「はーやーく!!」となると、程なくしてメンバーが再登場。なんか早い。
メンバーも乗せられたのか!? とか思いました。

普段のライブに行き慣れている人は、
そんなヴォイヴォイしたノリの奴で埋め尽くされたらどうしよう、とか思うかもしれないけれど、
それは確実に無いと言い切れます。
一年分たまりにたまった愛情やエネルギーは、この日に全て剥製になってしまったからね。
もう残ったのは出涸らしですよ。
普段からこんなノリなんて、絶対に無理。出ない。




曲の合間には怒号のようなメンバーコールが起こるわけですが、
この日、いちばん声援を集めていたのはケンケンでした。
ステージ上での所作も普段より自信に溢れていたし、口を開くたびに「お前ら最高!」と。
いつもは弟みたいなキャラクターで通っているケンケンが、
この日だけは弟たちの前で張り切るお兄さんみたいで、すごく新鮮。
MCで喋ろうとした瞬間に「ケンケン脱がないのー?」と客席から口々にイジられていたのはまぁいつも通りのケンケンでしたけれど。

アンコールでようやく? Tシャツを脱ぐと、
「今からお前らへの愛を見せてやる!」と。
そこには大きく『プラ男』の文字があり(twitterの写真を見る限り、書いたのは多分アキラさん)、
この日一番の歓声、プラ男コール。
普段は隠れていてなかなか見えないけれど、愛情をぐいぐいと前に押し出していくケンケン。レアだ。


あと、アンコール以降、ずっと4人はビールを飲んでいました。
観客は「おーさーけ!」「おーさーけ!」と謎のコール、
ケンケンは「みんなで乾杯しよう! 手を上にあげて!」と突然の気遣いキャラに変貌、
竜太朗さんは「しばらく来ないので、お酒が来るまで曲でもやってましょうか」と目的を見失う。
リーダーは「俺、あんまりお酒飲めないんだよねー」と謎の下戸キャラ演技。
アキラさんはアンコール時、もうビール飲みながら舞台に出てくる。
カオス。

多分みんな酔ってた。
観客含め、あの場の魔力に酔ってた。
目の前の出来事を楽しむことしか考えてなかった。
なんか色々なこと忘れて楽しんだし、その日のことも殆ど覚えていない。

ビールを持って出てきたアキラさんは「なんか夏祭りみたいだな」って言ってたけれど、
日本の祭りっていうのはもともと、神も人々もみんな一体化しようぜ! っていうイベントだったんだ。
だから、このアキラさんの発言は、なんか多分、深いところで色々と正しいんだ。

さっきも書いたとおり、
テンションが上がれば前の人に手が当たっちゃったり、誰かの足を踏んじゃったり、コロダイで誰かに痛い思いをさせたり、本当にみんながみんなぐちゃぐちゃだった。
けれども、それを咎めようとする人なんていなかった。
自分も好き勝手やるから、みんな好き勝手にどうぞ、とにかく全員楽しもう! という、そんな空気に満ちていた。
演者も含めてね。
ケンケンが格好良いMCをしているときに、竜太朗さんがくるくる舞いながら目の前のお立ち台を横切って行ったりとか。
あぁ、それはいつものことか。

ただ、前述のアキラさんの発言を受けて、竜太朗さんの
「日本の夏ー、日本のプラ男ー、ナショナルキッドー」
という流れは凄く美しくて、
この人は芯から全部こういう人、いつも通りの竜太朗さんなんだな、と思いましたけれど。

自由な竜太朗さんといえば、
アンコールの確かヘイトレッドの前、
「演奏中でもお酒持ってきてください、飲みますから! メンバーにも飲ませますから!」
と言って、
演奏しながら飲むのかよ! と突っ込むアキラさんに、
「飲ませます! こうやって(上から注ぐように)飲ませると思うでしょ? でもいちばん効率の良いやり方は口移しなんです!」
と発言し、
「ギャルが! せめてギャルがいい!」とアキラさんをビビらせていましたが(ギャルって言葉の昭和感……でも何故か凄くアキラさんっぽい)、

スタッフが演奏中、本当にビールを持って上手側から出てくる
→ぶつからないように、アキラさんが前のほうで静かに演奏する
→ギターソロ中に竜太朗さんがイッキで飲み干す
→アキラさんが若干ビビりながら周りをチラ見する
の流れが個人的にツボでした。
アキラさんマジでアキラさん。

もう一個思い出しました。
アンコール2回目で再び出てきた時の告知。
ニューシングルのサイレントノイズ出します、という話から、
突然アキラさんがイントロのギターを弾きだします。2015年ゆくプラでも同じような流れのフラスコがあったね。
入りたがらないケンケンを、竜太朗さんが「どうぞー」という感じで促し、半ば無理やりにドラムを入れると、
リーダーも入り、まさかのイントロ完走。
しかし、「レコーディングしてから一回も聞いてないから」と竜太朗さんは入れず。
確かに!
そしてケンケンかわいそう!


なんだかぐちゃぐちゃした話になってしまいましたが、
ナショナルキッドから、
(剥製北海道から始まった、両手を前に垂らすあのポーズで)「最後はこれっきゃないでしょ」ghostの流れはもう完全に振り切れてました。
誰もが持てる力を全て相手にぶつけ、
そして誰もが一体化していました。人類補完計画か。
リーダーなんてステージの下に降りてきて演奏してたし。
もう何も要らない! とでも言うような轟音と閃光の中で、ステージは華々しく終わりを告げました。

蟹江一平さんもどこかで書いていたのですが、私はghostの歌詞を今の今までずっと『もう何も要らない』だと間違って覚えていました。
でも多分、それはそれで正しいのでしょう。

全てが終わった後、周りからは再びアンコール。
ステージが片づけられていく中で、私も一緒になってやっていたのですが、
しばらくすると、係員の人に「出口はあちらです」と示されました。

そして振り返ると、後ろにはもう殆ど人が残っていませんでした。
両隣の人と顔を見合わせ、苦笑しながらこの日のライブは完全に終了しました。


2列目という場所は、この狭いハコの中で、本当に近かった。
本当に竜太朗さんの筋肉の動きとか見えたんだよ。
全員と何度もハイタッチしましたが、
アキラさんの熱くて硬い手、全力の握手。
ケンケンの力強いハイタッチ。
竜太朗さんの手の冷たさと肌の美しさ。
リーダーの細さ。というか、何故リーダーは汗一つかかないんだ。 
ひとつひとつが凄まじいインパクトを残していきました。

竜太朗さんのキャラクターが独特なことで、
なんかへにゃへにゃしたバンドだと思われがちな彼らですが。
いや。実際に触れあってみたらとんでもなく力強いよ。
20年間続いているバンド、と一口に言うのは簡単だけど、
この力強さがあるからこそ続けてこれたんだ。
というより。
20年間続いてなおこの強さって、なんかおかしくないか。どうなってるんだ。

このライブでも竜太朗さんは「愛してます」と言っていました。
けれども、その言葉は年を経るごとにどんどん重さを増していく。
そりゃそうだ。彼らは命を削ってるんだから。
愛とは削った命の重さそのものだ。
このエネルギー、この20年という長い時間。
今までは全然思ってもいなかったけれど、その重さにどかんと心臓を打たれたことをよく覚えています。


以上。
書けば書くほどライブレポートからかけ離れていくこの文章は、この辺で終ります。
凄まじく長くてごめんなさい。ファン以外の人には何もわからない文章でごめんなさい。
本来はこんなこと書くブログじゃないんだけどね……
そのうち、全アルバム紹介とかできたらいいな。

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