アルバム「Puppet Show」の感想、続きを書きます。

#5. 幻燈機械
Plastic Treeの歴史に燦然と輝く名曲……と個人的には思っています。
是非ともライブで聞いてみたい曲の一つ。

7分を優に超える凄まじく長い曲なのですが、全くその長さを感じさせません。
これは凄いことだよ。
しかも、特に転調したりテンポが変わったりというような展開らしい展開はない。いたってシンプル。
構成的に、特徴らしい特徴と言えば、ストリングスを使っているくらいか。
そのシンプルさの中でここまで聞かせるって凄いよね。

前3曲からうって変わって、この曲はリーダーのベースが3歩くらい後ろに下がっています。全く主張しない。
代わりにギターとドラムが ぐいぐい出てくるのですが、この二人の絡みがじつに素晴らしい。
特にTakashiさんのドラム。
暖かく、そして奥行きのあるドラムは、曲の世界観をかちっと印象付けています。
タイトルは「幻燈機械」だけど、描かれた世界は平面じゃないんだよね。影絵の中へ思いっきり踏み込んでいく。
長く、長く伸びる影。

メロディーはきれいだけど、どこか不気味なイメージ。
それは、歌詞のせいによるところも多分にあるのでしょう。

幻燈機械とは何だ。
手回しの映写機、
そしてそれは自分の心だ。
見たい情景だけを永遠にリフレインする。
でも持ってないフィルムなんてどうやったって見られない。

限られた手持ちのフィルム、その中の限られた情景を永遠にリフレインする閉塞感。
そう。この曲を支配するのは閉塞感なんだ。美しい世界から外に出られない。
そんなことをやっている間にも時間は過ぎていく。

「Plastic Tree=枯れない木」というのは、
そのような感傷を宿命的に内包しているのかもしれない。
だからこそ、この曲はPlastic Treeのイメージの中心にあり続けるのだろうと私は思うのです。


#6. 「ぬけがら」
ギター弾き語りから始まる曲。
AメロBメロはアコースティックギターとドラムだけの静かな構成で、
まるで夏の真昼みたいにぽっかりと開けた空のよう。

それが、サビに入ると豹変します。
アキラさんのギターが空間を埋め尽くす勢いで喚き散らし、
リーダーのベースもわんわん叫びます。
それまで開けていた視界が突然閉ざされて、
内面に向かってエネルギーが爆発していくよう。
声にならない叫びだ。

歌詞も、だいたいそんな感じ。こういう感覚ってあるよね。
本当に、このアルバムの歌詞はさらっとシンプルながら、実際に触ると刺さる。そういうのが多いです。

それにしても、
サビに入ると視界が開ける曲は数あれど、
逆ってなかなかないよね。
よくこんな曲を作れるな、と驚きます。

個人的には、サビのドラムにもう少し工夫があっても良かったのかな、とは思います。
Takashiさんが悪いというよりも、他の二人のインパクトが凄すぎるのです。


#7. 本当の嘘 -Studio Live-
2ndシングルです。
スタジオライブ版ということで、撮り直しがされているのですが、
こっちのバージョンのほうがシングルよりも圧倒的に良いです。
音圧が大きく上がっている、
何よりもアキラさんの表現力が圧倒的に向上している。

曲自体は90年代Vロックの最大公約数という感じで、
あまり見るべきところは無いように思いますが、
このきらきらした曲が、このアルバムのこの位置にあることはとても良いです。
落とされる曲ばっかりだから、一服の清涼剤になってくれます。

でも本当に、あのシングルバージョンからよくここまで修正したな。
完全にプラさんの音になっている。
メンバー個々の向上心とか、音楽に対する真摯な態度とか、そう言ったものが見て取れます。
ぜひ聞き比べてみてください。


#8. monophobia
モノフォビア、イコール孤独恐怖症。
スマートフォンやらSNSの普及によって、俄かに脚光を浴びだした言葉でもあります。

やっぱり、最初から歌詞がすごいね。
『空が晴れてたからみんな居なくなった。』

確かに分かります。
美しいものを遠くから眺めるときの無力感。
自分でもそれを美しいと思うから、負の感情をぶつけることさえできない。
生々しい感情の折りたたみ方が素晴らしいです。

サウンド的にも叫んでいて好きですが、
歌詞のインパクトは一歩抜き出てますね。


#9. クリーム
インディーズミニアルバム「Strange Fruits」にも収録されています。
これも「本当の嘘」と同様に新録ですが、何故かこの曲はそれほどの差を感じません。
竜太朗さんの声が柔らかくなっているくらいか。

あんまり歌詞のことは考えないようにしましょう。
この曲を聞くときには、それがいちばん良いと思います。
ほら、風景はすごく美しいし。

以前はライブでこの曲を多く演奏していたようですが、私はこれを聞いたことがありません。
私には、ぜひライブで聞いてみたい曲が3曲あるのですが、そのうちのひとつです。

シンプルに長調。
美しく、多幸感に溢れたメロディー。
楽器隊の明るいアレンジ。
ライブで聞けたら絶対に楽しいと思うんですね。

ライブDVDでは、観客に、
『「空氣の渦」「死ぬ方法」「まとわりつく嘘」とか』の部分を歌わせていて、
竜太朗さん攻めるなぁ、と常々思います。
みんなテンション上がってる。


#10. 3月5日。
プラさんの中でも屈指の毒ソングですね。
嫌いな曲ではないけれど、あまり聞きたい曲ではないし、あまりライブで演奏してほしい曲でもありません。
演奏する方も聞く方も、多分それなりの覚悟が無いと。

歌詞について。
特筆すべき部分は、
「それでも、もしも僕を好きになってくれるなら 両手を広げてとべるんだ」
ですね。

両手を広げて飛べるんだ。
この量産型J-pop歌詞。普通だったらギャグにしかならない言葉ですが、
歌詞全体を見れば見るほど重い言葉なんですね。
その反転の、落差の大きさはすごい。暗い。まさに奈落。

音について。
ドラムの重々しさも好きですが、
何よりもサビのギターリフが好きです。不安が押し寄せてくるようで。

後ろでカラカラ鳴っている謎の音は、雰囲気を出すためにしても少しやり過ぎじゃないか、とも思いますが。
忘れがちなことですが、彼らはヴィジュアル系なので。
これはこれで、世界観の作りこみとしてアリなのだと思います。

 
#11. サーカス
7分越えの曲、その2。
#5の幻燈機械とは違い、こっちの曲はダイナミックに展開しまくってます。
手を変え品を変え、楽しませようと次々に新しいものを見せてくる様子はまさにサーカス。
長さは感じるけれど飽きない。ひとつの幻燈を見た後のような満足感が残ります。

最後の曲にして、このアルバムの中核を成す曲。
まるで、このアルバムに描かれた世界観を全て一つの絵に閉じ込めたよう。

優しい夏の夕暮れを思わせる。
その中でぽつぽつと点灯していくサーカスの灯り。
それは人々のざわめきを溶かしこんで、楽しそうな世界。

と思っていました。
でも歌詞を見ると世界が反転するんだよね。
この捩れ加減がPlastic Treeなのだな、と思います。
歌詞については特に解説したりしませんが、
寒くない冬って何だよ、
ということ。
このアルバムの歌詞は、何か一貫してるなぁ。

書いていて思ったけれど、
このアルバムは全体に、歌詞とサウンドのアンバランスが凄いと思います。
あんな曲が出来て来たら、こういう詞を乗せようなんて普通は思わない。そんな曲が多い。
その辺りも、とても味わい深いです。

この曲に関して言うと、
ギターの展開が大きく、アキラさんの力が存分に発揮されているのですが、
その中でも最後の「寒くない冬が来れば……」辺りのギターリフがすごく好きです。
あまりにも力強いから、本当に寒くない冬が来るんじゃないかと錯覚してしまいます。
なんだか、歌詞とサウンドの間の断層に取り残されそう。



Puppet Showは誰にでもお勧め出来るアルバムですが、
Plastic Treeを初めて聴く人に勧めたい感じでは無いです。
入り口とするにはあまりにも深すぎて、迷いそう。

初めて聴く人には、次回紹介する「ウツセミ」を紹介したいところです。
バランスが良い。間口が広くて入りやすい。適度に深い。
ということで次回は「ウツセミ」です。

なお、もしこのアルバムの中から誰かに薦めるなら、
「絶望の丘」
でしょうか。
ヴィジュアル系3大丘のひとつを訪れてみてください。ある意味で文化財だから。